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祖母に聞いた昔話。
静岡県の田舎の山奥にはポスカスなるお化けがいて、なんか夜になると人間をさらって食べるとかいう、非常にざっくりとした感じの昔話がありました。
ただ、あくまでフィクションでしかなかった他の多くの昔話とは異なって、夜になると山の方からポスカスの鳴き声が実際に聞こえてきて、幼い祖母は大変薄気味悪く思っていたそうです。

ある日、蚕の世話のために祖母の家で雇っていた若いお兄さんが、仕事の時間の夕方になっても姿を見せないということがありました。
当時は電話なんてどこの家にも無かったので、祖母が直接お兄さんの家へ赴いて様子を確認するということになりました。
街灯なんて無い山の夜道を、月明かりを頼りに進む祖母。獣の遠吠えや虫の音ばかりが聞こえます。
幼い頃の祖母は不安を押し殺し、務めを果たそうとただただ暗がりを駆け抜けます。 そして無事に、お兄さんの家までたどり着きました。
ところが、家の中にはお兄さんはいません。これはどういうことだろう、やれ困ったぞ、と祖母は途方に暮れてしまいます。
どこかで行き違いになったのか、このまま引き返しても良いのだろうか。お兄さんの家の前で立ち尽くし、祖母は迷いました。
そのときです。
「……ースカース……」
山の重苦しい暗闇を湛えた森が、にわかにざわざわと騒々しくなりました。つむじ風によって擦れ合う木々の葉に紛れ、何者かの声が聞こえてきます。
「……ポースカース……」
祖母は身をすくめ、暗闇の向こうへ目を凝らしました。
「……ポースカース」「……ポースカース」
その声は、祖母のすぐ近くから聞こえてきました。祖母は弾かれたように元来た道へ駆け出します。
背中から追い立てるように、周囲の木々が騒めきました。
「……ポースカース」「……ポースカース」「ポースカース」「ポースカース」
「ポースカース」「ポースカース」「ポースカース」「ポースカース」
「ポースカース」「ポースカース」「ポースカース」「ポースカース」
「ポースカース」「ポースカース」「ポースカース」「ポースカース」
「ポースカース」「ポースカース」「ポースカース」「ポースカース」
「ポースカース」「ポースカース」「ポースカース」「ポースカース」

……祖母が家に駆け戻ると、果たしてそこには探していたお兄さんが何食わぬ顔で仕事をしていました。
やはり、お兄さんは別の近道を通っていったために祖母と入れ違いになっていたのです。
祖母は、ただ怖い思いをしただけで、まるっきり徒労に終わったおつかいの顛末にがっかりしたそうです。

やがて戦争がはじまり、お兄さんは兵隊にとられて死んでしまいました。
ポスカスの鳴き声が聞こえることは、時代が下るごとに少なくなっていきましたが、今でもたまには耳にするそうです。
あと、ポスカスの正体はフクロウだそうです。

制作協力:ぼくのおじいちゃんおばあちゃん